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「おれはまだ一本立ちの医者といふわけにはいかない」
「先生お帰りになりましたかね」
小谷は不安げに呟いた。
「ね、お母あさん。これ、こんなに汚いでせう。もう少し……たいんですけど。……でせうねえ」
「いや、いや」
「いや、どうも。恐縮です」
「さあて、帰るかな」
「なに、切れてるつて?」
読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。
房一は又重たげな恰好で坂路を登つて行つた。下を見ると、心持阿弥陀あみだに被つた練吉のソフト帽が、もう小さく桑畑の間を走つているところだつた。彼は、練吉の気弱さうでもあり、又疳かんの強さうにも見える眉のあたりの色を、今ごろになつて急にはつきり思ひ出した。
「ふむ、ふむ」
「やっぱりチブスで?」
と、それまで鹿爪しかつめらしい表情をくづさずにいた仲買の富田が、突然半畳を入れた。どつと立つた笑ひ声で、聞きとれなかつた者までがふき出した。