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    と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。

    「いや、どうも。恐縮です」

    と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。

    対診に来てくれた練吉のことを気にかけているのだつた。

    「私も眠れなくて夜中に一度湯へはいるのですが、なんだか気味が悪るござんしてね。隣の湯へ溪から何かがはいって来るような気がして――」

    と、相手は慌ててその筒抜けな声を庫裡の居間に向けて放つた。

    「それあ、さうだらうなあ。なんしろ広い海のこつた!――ねえ、君」

    口を利くのは半シャツの男だけだつた。恐らく四十前後だらうが、前額のひどく禿げ上つた、痩せ身の、鼻下にちよつぴりした髭をつけている、がそれらを貫いている表情は何か殺気のある精悍さといつたものだつた。口をきく度に、彼の眼は喰ひこむやうに相手を一瞥した。

    「あなたは御存知ないんですかね」

    「ぜひ、さういふことに」

    房一の竿に最初のやつが掛つた。

    「わたしやア――」

    「さう。――いゝやうだ」

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