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「何でもないぢやないかね、君から聞いたとほりだ。心配することはないと思ふな」
「何んの。面倒だからこのまゝ行かう」
「一つ着て見せたらどうです?高間さんにはきつと似合ひますよ」
「私共は、これも(練吉を指して)この町の医者です。実は火事だといふから駆けつけたので。聞けば、演習だといふことですが、それなら前もつて町役場なり駐在所なりへ通知があるべき筈だと思ひますが、それはなさつたでせうな」
不幸なことに房一の予測はあたつた。いや、それ以下とも云へた。
房一はふと自分に返つて訊いた。
「どれ一つ診ませうかな。――ふうむ、これあどうしたのかね、ハッパでやられたのか」
「さあ、くはしいことは判りませんね」
「しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?」
鍵屋の隠居神原直造は老来なほ矍鑠と云つた様子だつた。
徳次は一種くさめをする前のやうな、煙けむたげな表情になりながらわき見をしたり、房一を眺めたり、どぎまぎして答へた。
「ですが、何とも手のつけやうがない」
房一は思はず笑ひ出した。